新国立劇場で上演中のワーグナーの楽劇『ワルキューレ』を観てきました。わたしが最も偏愛するオペラのひとつで、これまで実演は限られているものの録音や映像の記録にはずいぶん接してきたつもりです。ところが、今回の公演(キース・ウォーカー演出、ダン・エッティンガー指揮)は第1幕から驚倒。ジークムントとジークリンデの禁断の愛のシーンがこんなにゆっくりと演奏されたのを聴いたことがありません。このテンポ設計は基本的に最後まで貫かれ、第3幕のフィナーレとなるヴォータンの告別ではほとんど音楽が止まってしまうほどに感じられました。それはおそらく、おもちゃの世界のように構築された演出意図に沿うもので、両者があいまって5時間以上におよぶ奇怪な白日夢を現出させることに成功したと思います。恐るべき体験でした! いまが旬の歌手たちのめざましい歌唱に酔い痴れたことも特筆大書しておきます。
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