先週末、新宿のとあるシャンソンバーを訪れました。恐る恐る扉を開け、ライトを落とした店内に入ると、スポットライトを浴びる一人の妖艶な女性ボーカルの歌声とピアニストの奏でる旋律が、そこから先に進むことを拒んでいるような錯覚に陥ってしまいました。
片隅に席を取り、なんともやり切れない雰囲気に、隣に居合わせた老人に声を掛ける。老人は年に何度かここを訪れるという。おそらく家族はここに来ていることを知るまい。ウイスキーをなめながら、ただひたすらに女性ボーカルを見つめているその表情は恍惚そのもの。自分だけの世界だ。自分も人生の後半はそうありたいと思いながら、結局終電間際まで、歌に酔いしれピアノの音色にひと時を楽しむことができました。
自分の住むビジネスの世界では「利潤」のみが正義で、あとは無意味と判断される中で生きていると、そこには自分の知らない世界があり、同時にそこで生業を立てている人々がいて、しかも人々の役に立っている。どちらが上でどちらが下だとか、どちらが幸せでどちらが不幸といった判断基準ではなく、いろいろなものに触れてみて、自分の尺度(世界)を広げていくことの大切さを痛切に感じて、少々酔いの回った身体で地下鉄に乗り込みました。